神経炎症(活性化ミクログリアや反応性アストロサイトの集簇)を生体画像化するPETイメージング剤としては、ミクログリアのミトコンドリア外膜に発現するtranslocator protein(TSPO)に結合するPETプローブがこれまで数多く開発され、臨床で使用されてきました。一方、アストロサイトの画像化において最も有力な標的と考えられているのがモノアミン酸化酵素B(MAO-B)です。
MAO-Bを認識するPETプローブとしては、パーキンソン病治療薬として用いられているセレギリンの11C標識体である[11C]deuterium-L-deprenyl (DED) が知られており、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症の患者を対象とした臨床研究がこれまで行われてきました。しかしながら[11C]DEDはMAO-Bとの不可逆的な結合特性を示すため、短期間での経時的なモニタリング用途には適さず、定量化に難があることが欠点でした。このような問題を克服すべく、THK-5351の化学構造(Fig.1)をベースにして新たに開発されたのが[18F]SMBT-1です(Harada et al. J Nucl Med (2021), Villemagne et al. J Nucl Med (2022))。
[18F]SMBT-1はMAO-Bとの高い結合親和性(Kd = 3.7 nM)を示し(Fig.2A)、MAO-Aやその他の酵素、受容体、アミロイドやタウなどのミスフォールディング蛋白への結合親和性は低く、MAO-Bへの結合選択性に優れていることが確認されています。またDEDとは異なり、MAO-Bと可逆的に結合し(Fig.2B)、PET画像の定量化において有利な特性を有しています。ヒト脳組織切片を用いたオートラジオグラフィーでは、アルツハイマー病(AD)や進行性核上性麻痺(PSP)の患者脳に対して[18F]SMBT-1は強く結合します。このような結合は、MAO-B阻害薬(Lazabemide)を併用することによって完全に阻害されますので、SMBT-1がMAO-B選択的に結合することがわかります(Fig.3)。さらに[18F]SMBT-1は[18F]THK-5351に比べて血液脳関門透過性が高く、正常組織からのwash outも速やかであることが動物実験で確認されています(Fig.4)。
現在、オーストラリアのメルボルン大学でアルツハイマー病患者を対象とした臨床研究が進行中であり、アルツハイマー病の初期からSMBT-1の集積が上昇することが確認されています(Villemagne et al. J Nucl Med (2022))。国内(東北大学)や米国の複数の施設でも臨床研究が計画されています。
