睡眠はヒトが欠かすことのできない生命活動であり、睡眠障害は日中の作業効率や生産性を低下させるだけでなく、多くの疾患リスクを高めることが知られています。そのため、睡眠の生理的意義や神経調節機構を同定することは、QOLの向上や、新たな創薬標的の開発など、社会的にも大きな意味を持つと考えられます。近年睡眠覚醒に関与する神経細胞がいくつか同定されてきましたが、それらが複雑なネットワークを構築していることから全容の解明には未だ至っておりません。当研究室では、これまで覚醒に重要な脳部位である視床下部に神経核を有する神経細胞に着目し、それらの睡眠覚醒に関する役割について東北大学、ハーバード大学と共同研究を行ってきました。これまで遺伝子改変技術を用い、化学遺伝学的手法、およびオプトジェネティクス、ファイバーフォトメトリーなどの手法により、視床下部のニューロテンシンと呼ばれる神経細胞を活性化させると睡眠中のマウスを覚醒させることができること(1)、また同じく視床下部に神経核を持つメラニン含有ホルモン神経細胞を活性化するとREM睡眠が増加することなどを明らかにし報告しました(2)。それらに加え、視床下部に存在するヒスタミン神経系、オレキシン神経系の役割についても研究を行っています。今後、これらの研究を基盤として、その詳細な神経ネットワーク機構を明らかにすることで、睡眠覚醒調節に関わる分子機構の解明や、睡眠障害が原因となる多くの神経変性疾患等の新規治療法の開発に繋げるべく、研究を進めています。